腐植について
健康で肥沃な土壌には欠かすことのできない、腐植についてご説明します。
腐植(humus)とは、土壌微生物の活動により動植物遺体が分解・変質した物質の総称の事です。
単に土壌有機物の事をいう場合と、腐植化作用と呼ばれる分解・重合を繰り返し経て生成された、暗褐色でコロイド状の無定形高分子化合物群(腐植物質)の両方を腐植と呼びます。
おおよそ腐植物質は、枯れた樹木や草、落ち葉、動物の排泄物や遺骸などの有機物から変化してできる物質で、化学品のように合成で作ることはできません。
その生成過程はとても複雑で、微生物や菌が分解していくのですが、
この過程にはとても長い年月がかかり、自然の森林では積もった有機物から1mmの腐植層ができるまで数年~10年以上とも言われています。
代表的なものとしては、ウクライナの「チェルノーゼム」とよばれる地帯でしょう。
農業に携わるものにとって、世界で最も生産力のある農耕地と言われ、実際にこの地は小麦の収穫量から世界3大穀倉地帯となっています。
そして、この生産力の秘密は土。この地帯の土は真っ黒な色をしていますが、この黒い色の正体こそが「腐植物質」なのです。
世界ではすでに「腐植物質=土のポテンシャル(地力)」は常識となっており、農業を主軸としている国では積極的に活用されています。
広義の腐植(土壌有機物の部分)
腐植のおおまかな構成は下記の内容で認識されています。
- ・非腐植物質(non-humic substances、腐植化されていない糖やタンパク質など)
- ・腐植物質(英: humic substances、腐植化された高分子化合物群、狭義の腐植)
- ・フミン酸(「腐植酸」、pH2以下で非水溶性の画分、暗褐色)
- ・フルボ酸(すべてのpH域で水溶性の画分、黄褐色)
- ・ヒューミン(非水溶性の画分、黒色)
自然環境において腐植は、単に生き物の栄養源となる以外にも様々に重要な働きを持っています。
中でも土壌の保水性や団粒化を促進したり、土壌の陽イオン交換容量やpH緩衝能を増加させたり、リン酸の土壌固定を抑制したり、植物の生理活性物質として振る舞ったり、河川・海洋へ鉄(フルボ酸鉄錯体)を移動させたり、土壌のポドゾル化作用に関わったりしています。
土壌における腐植の量は、土質や、腐植の分解・供給の速度、降雨による流出、土壌動物による耕耘・撹拌など、様々な要因が関わり、時に相互に影響する。
腐植の多い土壌は黒ずみ、土色は腐植含有量の主観的な判別の目安にされます。
腐植土
地盤及び建築の観点から説明すると、腐植土は、大きな川や湖の水性植物などの有機物が分解して土壌と混ざり合ってできた暗褐色の土のことで、土質分類上は、有機土質に区別されています。
普通の土は、固体・液体・気体の三相構造から成り立っていますが、有機質土では、固体の部分が粘土や砂といった土粒子の部分と水性植物などの有機物が混ざり合って成り立っています。
腐植酸の大きな役割として、
具体的には、まず、固くなって栄養分がなくなってしまった土壌に、フミン酸の成分により土が柔らかくなり隙間が出来ることで植物の根が伸びやすい環境を作ります。
そして、植物ホルモンの分泌を促すことで成長を活性化させると同時に、土壌自体の呼吸や酸素活性を高め、
通気性や吸水性を良くします。
植物にとって必要な栄養分、窒素、リン酸、カリウムをフミン酸はすべて含んでいるため、それらを効率よく供給することができるのです。
農学などでは腐植を20%以上含む土壌と定義されます。
土壌の腐植含有量の区分
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区分 |
腐植含有量 |
土色明度の目安 |
備考 |
なし |
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あり |
2%以下 |
5-7 |
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含む |
2-5% |
4-5 |
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富む |
5-10% |
2-3 |
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すこぶる富む |
10-20% |
1-2 |
古くは「腐植質土」1930年代以前 |
腐植土 |
20%以上 |
2以下 |
「有機質土層」とも |
一般的に腐植土の範疇に収まる土壌分類には、泥炭土と黒泥土があります。
前者は排水不良な湿地などで形成され植物組織が残り、後者は泥炭地の地下水位低下などで形成され植物組織が分解されています。
泥炭土に含まれる泥炭ごけ(ピートモス)は園芸土として用いられ、腐葉土と用途や性質が類似しますが、酸性が強くなります。
日本では泥炭土(泥炭地)や黒泥土(黒泥地)は関東や東北に多く、泥炭土は北海道にも多く存在します。
国際連合食糧農業機関(FAO)やアメリカ合衆国農務省(USDA)の土壌分類では、これらはヒストソルに分類され、カナダやスカンディナヴィア半島、西シベリア平原に多く存在します。
腐植資材は、結構多く出回っていますが、天然資材と人工的に化学処理されたものとは、内容も効果効能も大きく異なってきます。
人工的に化学処理されたものは、当然のことながら生きた微生物は存在しないため、土壌改善には向きません。
究極の有機栽培は、自然の山々で育まれる山菜が良い例かと思います。
しかし、農業は、農地で育った作物を収穫して外へ持ち出してしまうため、そのままではほとんど土に腐植物質が供給されません。
スーパーや飲食店などに定時供給するための農業は、土から腐植物質がどんどんと失われていく状態です。
また、人口が増えていく中で自然の時間(循環)に合わせた農業は、現実としては難しい状況です。
結果として、作付けを行うたび次第に土壌と植物の健康は損なわれ、収量が上がらない、病気が多発するなどの問題が出て、
対処療法的に農薬や化学肥料で補っているのが、今の日本の農業の現実です。
土本来の地力である、腐植を補わないまま、栽培を続けることは、
土壌と植物にとって大切な貯金を取り崩しているようなものです。 人間の免疫力が低下するのと同じことですね。
母なる海と言われますが、腐植物質の中でもフルボ酸は水に溶けやすい性質を持っています。
そのため自然界の山や森で作られたフルボ酸は雨水に乗って川を降り、やがて海へと流れ出ます。
牡蠣の養殖などでも有名ですが「森が海を豊かにする」と言われるとおり、
森から海に運ばれたフルボ酸が海の植物プランクトンが育つのに必要不可欠なミネラルを供給することで、
食物連鎖の形成に深く関与していることは明らかで、海を豊にするために森を豊かにする運動も積極的に行われるようになりました。
『腐植』、フルボ酸は、人が生きるこの大地だけでなく、
生命の起源といわれる海の生態系も支える地球そのものの循環物質であることが明らかになっているのです。